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令和2年1月10日静岡新聞:記事全文

見出し こち女=健やかに強く 女性とスポーツ(3) 競技者 過度な減量 無月経招く
日付 2020.1.10
新聞名 静岡(夕)
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連載・コーナー こち女
ジャンル
記事全文 2019年8月、聖隷浜松病院(浜松市中区)に開設された専門外来「思春期・女性スポーツ外来」。前身の「思春期外来」時代から、部活動でスポーツに取り組む女子中高生が駆け込んでくる。最も多いのは、「月経がない」という訴えだ。 「高校3年生で初潮がないということも珍しくはありません」。10年以上にわたり同外来を担当してきた産婦人科の入駒麻希医師はこう話す。不安を感じていても競技を優先してしまい、部活の引退を機に受診するケースも多いという。無月経の最大の原因はエネルギー不足。無理な減量や激しいトレーニングに比して食事が足りず、痩せて体内で利用できるエネルギーが足りなくなると、月経が起きなくなる。排卵を促す女性ホルモンには骨を強くする働きがあり、10代に無月経に陥ると、本来女性が20歳ごろに獲得する最大骨量(骨密度)を得られないまま、骨粗しょう症や転倒骨折のリスクを抱えることにつながりかねない。入駒医師は「明らかな病気になる前に食い止めたい」と、指導者や保護者の啓発にも力を入れる。痛みが強い月経困難症や、月経前にさまざまな不調が現れるPMS(月経前症候群)についても医療的に支援することで、個々に合った効率的な練習や本番調整が可能になるという。月経の異常や不調は生活指導を行うだけで改善する場合もあるが、必要に応じて薬物療法を組み合わせる。本番の体調不良を避けるためには低用量ピルを使った月経周期調整が有効で、欧米のアスリートでは一般的だが、入駒医師は「日本ではまだ、将来不妊になるのでは、といった薬に対する誤解が解けていない」と指摘する。体重の軽さが有利に働く競技では、減量志向が根強い。全国高校駅伝の常連、常葉大菊川高の卒業生で陸上長距離選手の萩原歩美さん(27)=豊田自動織機=は、高校を卒業して実業団に進んだ当初、結果を求めて体重を極端に落とし、月経が止まった経験がある。長期離脱が必要なけがも増え、検査すると骨密度が低下していた。専門医にかかり、食事も改善して回復したが、「体の状態を知った上で負荷をかける大切さを思い知った」と話す。食事不足は貧血も招く。競技者は発汗や筋肉の増加に伴い鉄を失う上、女子は月経もある。萩原さんの恩師で同高陸上部の長距離女子を指導する八木本雅之監督(58)は数年前から選手の体重管理をやめる一方、簡易測定器を導入して貧血状態をチェックし、必要に応じて休養させる。「無理に絞っても結果は続かない」のが実感だ。全国高校駅伝で須磨学園高(兵庫県)を2度全国制覇に導いた豊田自動織機女子陸上部の長谷川重夫監督(56)は「貧血で骨ももろくなり、実業団に来た時点で限界という選手を見てきた。練習量の制限なども徹底し、成長期の過度な負荷を防止すべき」と訴える。減量を機に、摂食障害に陥る選手もいる。スポーツと栄養の問題に詳しい県立大の市川陽子教授は「食材や調理法の工夫で、食べながら痩せることは可能。指導者も安易に栄養補助食品などを勧めるのではなく、食事の量と質が適切かを見直してほしい」と望む。 <メモ>中高の陸上長距離や駅伝強豪校の一部では、貧血治療用の鉄剤注射を、持久力向上などの目的で安易に選手に使わせる不適切使用が明らかになっている。鉄剤注射の経験は女子選手でより多いとの調査もある。日本陸上競技連盟は重大な健康被害を招くとして昨年、防止のガイドラインを示し、12月の全国高校駅伝から出場校に血液検査の結果提出を義務づけた。