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令和2年11月22日静岡新聞:記事全文

見出し 解説・主張 SHIZUOKA=菊川の千框棚田 観光資源としてPR 保全人材確保や方策鍵
日付 2020.11.22
新聞名 静岡(朝)
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連載・コーナー 浜松 遠州
ジャンル 地域 西
記事全文 菊川市倉沢に広がる千框(せんがまち)棚田。保全活動に取り組むNPO法人「せんがまち棚田倶楽部」は10月、農林水産省などが主催する農林水産祭むらづくり部門で大臣賞を受賞した。各種団体と連携した保全活動が評価されたが、メンバーの高齢化に直面している。棚田の美しい景観と貴重な生態系を守るには後継者の確保が急務だ。千框棚田は約400年前に開田が始まった。「框」には「枠」の意味があり、古くから地元では「千の田んぼ」で千框と呼ばれた。昭和40年ごろの最盛期には約10ヘクタール、3千枚の棚田が連なっていたが、農業者の高齢化などで大半が荒廃。地元住民が原風景を守ろうと約25年前に保全活動を始め、2010年に法人を設立した。現在は3ヘクタールを復元。棚田や隣接する茶草場には貴重な生物が多くすみ、静岡大農学部や東京農業大が生態系などを研究している。法人の堀延弘事務局長(63)は「全ての棚田を復元させることがわれわれの夢」と語る。法人が導入した、田んぼを貸し出して農作業体験と農産物を提供するオーナー制度の利用者の多くは市外の家族連れ。都市部の人が自然を求めてオーナーになることが多いという。堀事務局長は地元オーナーを増やすのは困難と認識しつつも「地元の多くの人に貴重な場だと知ってほしい」と訴える。静岡大棚田研究会に所属する大学生の若い力は重要な戦力だ。年間15回ほど訪れて草刈りや田植えを行うが、今年は新型コロナの影響で活動開始が8月に遅れた。毎年50組を募集するオーナーも過去最小の36組にとどまった。人手が不足した今年の田植えに力を貸したのは地元の高齢女性。慣れた手つきで作業し、昨年と同じ広さで田植えができたという。コロナ禍で生まれた地域住民との密接な関係強化が欠かせない。法人メンバーの平均年齢は60代。傾斜のある田んぼでの作業は負担が大きい。昨年度開催した全イベントでの交流人口は2700人以上。多くの参加者を取り込むには、棚田を観光資源として地域全体でPRする必要がある。静岡空港や高速道路のインターチェンジが近くアクセスのいい千框棚田。日帰りで農作業をするオーナーが多いため、周辺観光施設に足を運びにくいとみられる。地元食材を販売する直売所の設置や棚田周辺への回遊促進など、経済効果を生み出す仕組みをつくり全体で棚田の継承方法を考えたい。