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令和1年7月10日静岡新聞:記事全文

見出し 参院選2019×外国人 しずおか 日本語教育 県内の課題=就学支援 定員超過「待機」相次ぐ
日付 2019.7.10
新聞名 静岡(朝)
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連載・コーナー
ジャンル 社会
記事全文 「ポルトガル語はヴェンデール、日本語は売る。ウル、ウリマス、ウラナイ、ウッテ」。5日朝、教室にいる12人の子どもたちが元気な声を響かせた。菊川市半済で、主に来日直後のブラジル人児童や生徒を指導するNPO法人「ミライ」の日本語クラス。太田理恵理事(56)は一人一人の宿題に目を通しつつ、身ぶり手ぶりを交えて日本語のアクセントの注意点を伝えた。ミライは2015年から日本語の読み書きや日本の学校の基本ルールを指導し、スムーズな入学を支援する。ただ、家族との生活を願う日系人労働者の意向を背景に、17年ごろから希望者が急増。待機児童や生徒も出始めていて、半年間待つケースもあり、外国人労働者の受け入れを拡大する政府方針の中、改めて政治課題になっている。6月末から教室に通うナカムラ・ユカリさん(12)=同市=も、自宅でクラスの空きを待った。「日本語は少し難しいけれど、勉強は楽しい。中学校で友達をつくってもっと話せるようになりたい」と笑顔を見せる。同法人は早期の待機解消を目指すが、指導者の退職により、二つあった日本語クラスは7月から一つに減った。太田理事は「成長過程の子どもは日本語と母語を両方学ぶべきだが、教える人や場所が絶対的に足りない」と嘆き、「外国人材の受け入れを進める国が率先して、彼らの子どもの教育を支える組織や活動を後押してほしい」と訴える。21日投開票の参院選では、日本語教育の具体策を挙げる候補や政党に一票を投じる考えだ。リーマン・ショック後の09年度から6年間、外国人児童や生徒の公立学校転入を国の全額負担で支援した「虹の架け橋教室」。当時の流れをくむ「菊川小笠教室」(菊川市下平川)は現在、菊川、掛川、御前崎の3市による協議会が国の一部助成で運営を続け、5カ国の児童ら計23人が学ぶ。ここでも2年ほど前から希望者が増加している。19年は定員24人を大きく上回る40人超から要請があり、待機者が出た。4月以降は指導期間の短縮などの対策を取るが、人手や運営資金の不足から対応に苦慮する。教室の統括責任者の土井弘美さん(49)は「教育現場に予算が回らず、子どもたちの支援体制に地域差が生じている。全国一律のシステムが必要」と声を上げ、参院選の候補者に向けて「地方で暮らす外国人を想像した施策を考えて」と注文する。多くの政党が外国人との共生社会の構築を唱えた今回の参院選。ミライの黄地潔理事長(56)は公約に目を通しながら「本気でこの問題に取り組んでくれるのかが大事。各党には実効性のある政策を求めたい」と強調した。指導不可欠な子ども拡大外国にルーツを持つ児童や生徒らの増加に伴い、県内の公立小中学校でも日本語の指導が不可欠な子どもが増えている。県教委と静岡、浜松の両市教委によると、県内では5月1日現在、前年比約1割増の3496人が日本語の日常会話に支障があったり、学年相当の言語が不足していたりしていて、日本語教育の支援を必要としている。どもに対する日本語教育の重要性について、静岡文化芸術大の池上重弘副学長は「十分な教育を受ければ経済的自立もできるし、グローバルな人材として活躍する可能性も出てくる。サポートがなければ社会の不安要素になってしまう」と指摘する。学校や地域、NPOなどの連携を支える行政を支援し、施策の監視を担う政治の役割がますます重要になってきた。