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令和3年7月18日静岡新聞:記事全文

見出し 京アニ事件3回忌
日付 2021.7.18
新聞名 静岡(朝)
1
連載・コーナー 大自在
ジャンル
記事全文 36人が死亡した京都アニメーションの事件からきょうで2年。放火した男は大やけどから一命を取り留め、昨年12月に殺人罪などで起訴された。しかし、初公判の時期は見通せない▼京アニに入社したばかりで事件に巻き込まれた大村勇貴さん=当時(23)=は菊川市出身。常葉大の松崎町実習で制作した絵本を家族が自費出版した「うーちゃんのまつざき」や愛読書などを紹介するコーナーが母校の掛川工業高図書館に常設された▼本紙14日付朝刊記事の写真中央奥に、走っている男の子の絵が写っている。アニメーターを目指して就職活動した際に、自己紹介のために描いたという。自画像が遺影になってしまった▼元の絵には、髪型や眼鏡、服装などの説明が書かれている。いつもパンパンのリュックは常に本が半分を占め、足は何かあれば欲のままに「全力ダッシュ」。好きなことに向かってひたむきに走れば実を結ぶというメッセージが後輩たちに伝わるといい▼アニメ業界の厳しさや、その中での京アニの評価について書いたアニメ研究家の津堅信之さんは、京アニの採用は技術よりも人間性と分析した(平凡社新書「京アニ事件」)。掛川工高に寄贈された大村さん愛用の図書と同じ本を開くと、努力で才能を磨いていたと想像できる▼3回忌、理不尽に改めて怒りを覚える。時間がかかっても真相解明が必要だ。大村さんを重大事件の犠牲者としてではなく、才能豊かな絵本作家として忘れないことこそ供養になろう。作品の原画展が24日、菊川市立小笠図書館で始まる。