文字のサイズ

小 中 大

記事全文

平成27年11月11日静岡新聞:記事全文

見出し 静岡茶次代へ 「安心」超える価値必要
日付 2015.11.11
新聞名 静岡(朝)
1
連載・コーナー
ジャンル
記事全文 菊川市のJR菊川駅から少し歩くと、ガラス張りのおしゃれな建物が目に入る。地元製茶問屋・丸松製茶場(佐野晋介社長)が5月にオープンした「サングラムカフェ」だ。急須で入れる茶にこだわり、茶葉は仕入れ工場ごとに「シングル茶」として試飲できる。来店者に風味の違いを体験してもらい、女性スタッフが理由を説明して魅力を伝える。「うちの会社は思ったより知られていなかった」と佐野社長。創業100年を超え、全国の量販店や茶専門店と取引し、輸出も手掛ける。そこそこ有名との自負があった。しかし、社長になり、地元住民さえ自社を知らないと気付いた。選ばれ続けるためのブランディングの必要性を痛感した。店内で丸松製茶場の名前は出さず、新しいブランド構築を目指した。佐野社長は「やっていること自体は新しくないが、見せ方を変えた。実験的で“とがった”取り組み」と自覚する。「品質の土台の上に独自の“とんがり”を作るのがブランディング」。県立大の岩崎邦彦教授は、静岡茶は売り方に改善の余地があると考えている。強いブランドはイメージが明快で、感性に訴求する。静岡茶のブランド価値は、「お茶と言えば静岡」のイメージから生まれる品質への安心感と言える。だが、高品質はあくまで強いブランド作りの前提。岩崎教授は「静岡茶といえばこう、と誰もが思い浮かぶイメージがない。品質を超えるイメージがなければ消費者に積極的に選ばれない」と指摘する。「静岡の人が思うほど、静岡茶の良さは消費者に伝わっていない」。静岡茶の市場調査を行ったジェイ・エム・アール生活総合研究所(東京都千代田区)の大沢博一取締役は断言する。首都圏の小売り現場では各産地の茶がただ並び、産地や価格による品質の違いを示せていない。静岡茶は高品質なイメージなのに低価格の商品が多く、価値を生かせていないという。「コカ・コーラ」はすでに誰もが知っているが、大量の広告宣伝でイメージを伝え続けている。佐野社長は「茶業界は消費者がお茶を当たり前に知っている前提で商売し、伝える努力を怠ってきた。おいしいお茶を飲んでもらうためにこつこつやっていく」と自戒を込め誓う。◇茶の生産量・流通量ともに日本一の静岡。戦後の経済成長に対応して売り上げを伸ばしてきた農家と茶商は今、消費減と茶価低迷に直面し、淘汰(とうた)の波にもまれている。岐路に立たされた今、本県茶業者は業界のリーダーとしてどんな将来像を描き、対応を打つべきなのか。魅力ある静岡茶を次代へつなぐ方策を探る。